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FiiO M15Sが3月20日に中国で発売開始となり、日本でも4月7日より予約開始、4月14日に発売となりました。また価格も152,900円と、海外価格の日本円ベースである13万円前後から+2万円程度に収まっており、十分に検討の価値のある価格になっています。
はじめに簡単なM15Sのご紹介です。M15Sは事前の情報では他社との差別化要素がなく、M17の下位互換のようなスペックでしたが、第2世代のDCアシスト電源システム(P/Dテクノロジー)の搭載により要注目の機種となりました。この第2世代のDCアシスト電源システムは後ほど、詳しく紹介しますが、PD充電器を利用して、Type-Cの充電口から直接給電でき、M17のDC給電モード同様の大出力を実現するモードになります。私は中国の発売に合わせて注文し、すでに入手しています。個人的にP/Dテクノロジー(第2世代のDCアシスト電源システム)はとても便利に感じています。その理由は家の中ではPD充電器に接続された状態で使用することができるからです。バッテリーの充電状況や無用な劣化を気にすることなく使用することができるのは、高価なDAPにおいて助かる機能となっています。ポータブルメインのユーザーであれば、M15S一つで、ポータブルも据え置きも兼ね備えることのできるDAPとなっています。
それでは早速M15Sの最新情報と実機レビューを詳しくまとめていきます。また本記事ではFiiOのJames氏が直接解説している開発ストーリーについても記載しています。ぜひ最後までご覧ください。なお、購入検討の際して、スペックの数値等は必ずご自身でメーカーページをご確認ください。
初めに:FIIOについて
FIIOを初めて耳にする方向けに公式の会社概要を以下の通り、意訳して抜粋します。すでにご存知の方は読み飛ばしてください。なお、社名の表記が「FiiO」から「FIIO」に変更されました。
FIIOは2007年に中国で設立されたオーディオメーカーです。デジタルオーディオプレイヤー(DAP)、イヤホン、多種多様なポータブルオーディオ製品を自社で研究開発、生産し、グローバルに販売をしています。ブランド名である「FIIO」は、Fi (Fidelity) と iO (1 and 0)に由来し、デジタルが生活に与えるよりリアルな体験とより便利な生活を意味しています。また中国語では「飞傲」と表記し、これは「FIIO」の音訳であり、春のような活気と青空に飛び立つ積極的な進歩と常に革新を続ける企業精神を象徴しています。FIIOはユーザーの声を非常に重視し、製品設計を絶えず改善し、消費者により多くの良質で高付加価値の製品を提供するための努力をしています。
FIIOのビジョン:中国製の評価を高める
https://www.fiio.com/About_FiiO
FIIOのブランド精神:オーディオは無限である
FIIOのビジネスは「オーディオ」に関する製品やサービスを提供することで、無限の楽しみのある「オーディオエコシステム」を構築することです。FIIOは高品質なオーディオデバイスを販売するだけでなく、FIIOが提供する製品やサービスを通じて、ユーザーに喜びを感じてもらうように努力をしています。
海外メーカーというとサポート面を不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。中国FIIOへ直接問い合わせをしたこともあり、対応はとても良いです。日本メーカーのようにその場でサポートということは難しいかもしれませんが、真摯に対応してくれるメーカーですので安心してご検討ください。さらにFIIOはWeiboという中国SNS上で担当者が日々、ユーザーと意見交換をしています。また製品開発過程においてアンケートも実施していて、ユーザーに寄り添った製品開発を行なっています。
FiiO M15S 発売日・価格
発売日:2023年4月14日(中国:3月20日) 価格:152,900円(6499元/999ドル)
日本では4月7日より予約開始、4月14日発売となりました。中国では一足早く2023年3月20日に発売開始となっていました。価格は6,499元と当初の計画(10,000元)から、かなり抑えた価格となりました。そのため日本の価格も約15万円とスペックに対して価格が抑えられたモデルとなっています。FiiOのDAPのなかでM15Sはサブフラグシップ/ハイエンドDAPに位置することから、ハイエンドDAPのなかではリーズナブルな価格です。
FiiO M15S 概要
M15の発売から3年以上が経過しました。FiiO M15SはポータブルデスクトップM17の技術的特徴を継承しつつ、M15に近い握りやすいサイズを維持し、ポータビリティとハイパフォーマンスの理想的な融合を実現しました。FiiO M15Sは、新たなハイエンドDAPとして、「デスクトップ/ポータブルの二つの電源モード」や「ハイブリッドな5つのゲイン設定」などM17の技術を受け継ぎながら、さらなる最適化を図っています。
第2世代のDCアシスト電源システム
FiiO M15SはFiiO独自の第2世代の「DCアシスト電源システム」=P/Dテクノロジーを搭載し、Type-Cの急速充電を自動認識すると、最大1,200mWのバランス出力が可能となる「エンハンスドオーバーイヤーヘッドホンモード」が設定できるようになります。DCあシステム電源システムでは、電力供給が26.57%上昇し、21.21%出力が向上します。これによりあらゆるイヤホンやヘッドホンを簡単に鳴らすことが可能です。さらにM15Sにはデスクトップモードがあり、このモードでは内蔵バッテリーは充電も放電もされなくなるため、よりバッテリーの寿命を守ることができます。
SoCやDACチップなど
FiiO M15Sは解像度と再現性が優れたデスクトップ機器向けの高性能DACチップ「ES9038PRO」を採用しています。Bluetoothチップは「QCC5124」、バージョンは5.0で、LDAC/SBC/AAC/aptX/aptX HDなどのコーデックに対応し、Bluetoothの受発信にも対応しています。Android 10で、SoCはSnapdragon660です。
機能
FiiO M15Sには、Roon Ready/Pure Audio/Android/AirPlay/Bluetooth レシーバー/USB DACの6つのモードが搭載されており、様々な利用シーンでのニーズに十分対応が可能です。ゲイン設定は、M17を踏襲した5段階ゲインです。High、Medium、Low、ヘッドホンモードの4つに加えて、USB電源供給時にエンハンスドオーバーイヤーヘッドホンモードを設定することができます。
デザイン、設計
FiiO M15Sは放熱、シールド、音量調整などより良い体験のために、設計を徹底的に見直しました。M15Sの内部で発生する熱を素早く効果的に放熱するため、高品質の素材をシールドに使用しています。M15Shが複雑な動作条件下でも高出力を維持できるように、高精度フィルム抵抗・コンデンサーを採用して、安心して高音質なサウンドを聴くことができます。またM15Sではデュアルボリュームコントロールモードを搭載し、120段階の精密な音量調整が可能です。ディスプレイサイズは5.5インチで、18:9の720pのハイビジョンスクリーンになります。
バッテリー
6300mAhのバッテリー容量を搭載しています。充電時間は3.5時間で、QC3.0+PDに対応しています。バランス出力では9時間、シングルエンドでは10.5時間の再生が可能です。
付属品
レザーケース、冷却ファン付きスタンドのDK3S、USBケーブル、インジェクトピン、USB A変換、説明書です。
FIIOによるM15Sの解説CG動画
スペック表(M15との比較含む)
機種 | M15S | M15 |
DACチップ | ES9038PRO | AK4499EQ*2 |
Androidバージョン | Android 10 | Android 7 |
SoC | Snapdragon660 | Exynos7872 |
RAM | 4GB | 3GB |
サイズ | 約140 * 80 * 18.9mm | 約134 * 75 * 18mm |
スクリーン | 5.5インチ | 5.15インチ |
重量 | 345g | 307g |
BTチップ | QCC5124 | CSR8675 |
BT送信 | SBC/AAC/aptX/aptX HD/LDAC/LHDC | SBC/aptX/aptX HD/LDAC/HWA |
BT受信 | SBC/AAC/aptX/aptX HD/LDAC/LHDC | SBC/AAC/aptX LL/aptX HD/LDAC |
シングルエンド出力(最大ゲイン設定) | 580mW+580mW | 490mW+490mW |
バランス出力(最大ゲイン設定) | 1200mW+1200mW | 800mW+800mW |
S/N比 | PO 122.5dB以上 / BAL 121.5dB以上 | PO 121dB以上 |
THD+N | PO 0.0005%未満 / BAL 0.00075%(1kHz/32Ω) | PO 0.0005%未満 |
ノイズフロア | PO 3.2μV以下 / BAL 5.3μV以下 | PO 3μV未満 / BAL 5.2μV未満 |
バッテリー | 6300mAh | 7,490mAh |
最大再生時間 | シングルエンド約10.5時間 / バランス約9時間 | シングルエンド約15時間 / バランス約9時間 |
充電時間 | 約3.5時間 | 約3.5時間 |
本体ストレージ | 64GB(実際の空き容量は48GB) | 64GB(実際の空き容量は52GB) |
拡張ストレージ | 最大2TB | 2TB |
FiiO M15S 開発ストーリー
WeiboではFiiO M15Sの開発ストーリーという形でFiiOのJames社長がM15Sの仕様をどのように検討し、決定がなされたのかを公開しています。この記事はその中で最も参考になりそうな、気になるポイントの詳しい解説(ES9038Pro採用、M17との関係、THX未採用、SND660採用など)を意訳してまとめます。
Q1 : なぜES9038Proシングルなのか
- M17/Q7/K9Proでの豊富な経験から、9038Proの全ての潜在能力を最大限発揮させることができるから。
- 9038Proは相対的に消費電力、体積が大きい。M15SはポータブルDAPの位置付けなので、このカテゴリーでは、デュアルにした時の排熱や体積をコントロールできない
- M15SはサブフラグシップとしてM17と販売価格で一定の距離を保つ必要がある。現在ES9038Pro/9039Proのコストが最も高い。これはAK4499EX+AK4191よりもコストが高い。そのためES9038Proのシングルにしました
- AK4499×2とES9038Proシングルの性能指標は近い。音の違いは固有であるものの、それで全てが決まるわけではない。ユーザーの声を見る限り、M15Sのチューニングは成功しています。
Q2 : なぜTHXアンプではないのか
いくつかのTHXアーキテクチャの中で、M15Sの出力に適切なものがない。もしくはM17のように出力が大きすぎるものになってしまう。一方でM11 Plusでは十分な大きさではない。妥協したのでありません。
Q3:M15のマイナーチェンジなのか、そともM17の下位互換なのか
M15Sの開発の出発点はM17の技術を下ろすことでした。主に次のよう技術が反映されています。
- ES9038Proの設計
- 最大ゲインモードでの据え置き並みの出力は、M17の構造を引き継いでいる
- アンプの組み合わせとチューニングは可能な限り、M17を参考にして最適化した
Q4 :なぜSnapDragon660の採用なのか
実は665の数字は大きいですが、660より性能が低いです。そのためFiiOではこの2年間、660を採用しています。また665の方が価格は安いですが、新しいCPUを導入するためには、多くの開発と資金が必要です。そのため、あえてコストの安い665より、より高性能な660を導入した方が結果的に合理的でした。来年の夏まで665は無理だと考えています。またM15Sは4GBメモリで、これは音楽鑑賞、シングルスレッドでは十分すぎるほどです。
FiiO M15S Weiboレビュー情報
Weiboでは発売前にいくつかのメディアがFiiOから製品提供を受けてレビューをしています。その内容を参考までに意訳して箇条書きでポイントをまとめておきます。また初期的なレビューですので詳しいレビューが上がってくればポイントを改めてまとめておきます。
・M15Sの外観は現在のFiiOデザインを引き継いでいて、現役のMシリーズプレイヤーとあまり変化はありません
LOMO胖纸(https://weibo.com/1911677930/4881040344877252)
・付属品が非常に豊富で、DK3Sの冷却ファン付きスタンドやTypeC to Cケーブル、レザーケースが付いています。M17のレザーケースは落ちやすかったですが、M15Sのレザーケースはとてもきつかったです。
・最大ゲインモードは気軽に使わないことを提案します。最大ゲインモードを設定して、Meze Audio 109Proを使ってみたところ、鼓膜を破壊することができるほどの音量でした
・ミディアムゲインに切り替えて聴いたところ、音はとてもよくて、6499元という価格を改めて考えるとFiiOは市場をよく理解していると感じました
FiiO DCアシスト電源システムの開発経緯・メリットの解説
WeiboではFiiOが新製品のM15Sおよび既存製品のM17/Q7にも搭載されるDCアシスト電源システムの開発経緯とメリットについて解説していましたので、その内容を意訳した内容もこちらに記載しておきます。
①バッテリー駆動による矛盾な解消
出力が大きい時消費電力が上がるが、バッテリー駆動では消費電力を抑える必要があるので矛盾があった。これをDCアシスト電源システムによって大出力を実現することで、K7やK5Proのような据え置きをも凌駕します。
②バッテリー寿命の解決
DCアシスト電源システムを利用したデスクトップモードでは、内蔵バッテリーを完全に切り離した状態と同義になります。スマートホンではコンセントに繋いでいる限り、バッテリーは劣化しますが、DCアシスト電源システムを利用したデスクトップモードでは劣化が起きず、バッテリーを保護することができます。
③利便性の向上(M15SのPD充電器対応の場合)
これまでのDCアシスト電源システムでは2.5径の電源コネクタが必要で、専用のACアダプターを付属していました。しかし、これは自宅やオフィスでの使用時に余分な荷物となっていました。また移動中にDCアシスト電源システムを使いたいという声もありました。そこで第2世代のDCアシスト電源システムはPD充電器に対応することで、Type-Cコネクタ接続した際に12Vに固定され給電されるように改良した
④コスト低減と互換性の向上(M15SのPD充電器対応の場合)
ACアダプターのコストが高く、M17/Q7のコストダウンが困難でした。一方で、PD充電器は多くのブランドから販売されているので、コストと販売価格を低く抑えることができます。これによりコストの高いACアダプターが不要になり、低価格モデルへも第2世代のDCアシスト電源システムを展開させることができます。
FiiO M15Sの実機レビュー
FiiO M15S デスクトップモードにおけるバッテリー保護機能
FiiO M15SはM17同様にデスクトップモードを搭載されています。このデスクトップモードに設定をしていれば、PD対応の充電器に接続し続けた状態でも充電は行われません。さらにFiiO M15Sを動作するために内蔵バッテリーが消費されることもありません。これは「バッテリーを取り外した状態」と同義であるとしています。FiiOがWeiboでの解説によれば、365日接続した状態でも問題ないそうです。実際に1週間以上、充電器に接続したまま使っていますが、バッテリーの数値は1週間以上経ってようやく自然放電により1%減りました。もちろん充電されることはありませんでした。なお、この自然放電について、充電をずっとせずにデスクトップモードのままでいた場合の挙動についてもFiiOに直接、確認した内容も記載しておきます。前提として、デスクトップモードではUSB給電された電力でM15Sを稼働させますので、自然放電以外ではバッテリーの放電はありません。
まず、リチウム電池の自己放電はとても小さいです。(M15SのP/D技術によるデスクトップモードでは)回路がバッテリーを監視していて、仮に長時間経過して(自己放電により)保護回路が動作する前に充電が開始されます。
FiiO(中国本国)回答
またリチウム電池で、最も危険な状態は電池内部の電圧が保護電圧以下になることです。そのため、FiiOの製品は自己放電によって保護電圧以下にならないように設計しています。
その他、改善点として嬉しかったポイントで、レザーケースの下側にSDカードを取り出すことができる穴ができました。
またFiiOオリジナルのDAPスタンドDK3Sが付属するようになりました。その代わり、豪華な木箱はなくなりました。FiiOとしてもよりユーザーが使用する物に対して、コストをかけたいという意向があったようです。
FiiO M15S インプレッション
まず前提ですが、M17ユーザーはポータブル性能を求めたい、DCジャックのACアダプターを辞めたい場合を除いて、乗り換える必要はないと思います。一方で、M15SのトーンバランスはこれまでFiiOのESSのDAPと異なっています。開発ストーリーでも高域の調整を行っているとの記載もあり、旧機種のAKMチップのM15とのギャップの少ないチューニングを行なっているように感じました。M17やK9PRO ESSの音作りをそのまま活かしつつ、高域が少し刺さるようなソリッド感がまろやかに調整されています。組み合わせるイヤホンやヘッドホンによっては、むしろ暖色系の音色に聞こえるほどです。これまでM17やK9PRO ESS以外のESSチップが搭載されているFiiO機種はやや高域のソリッド感が気になる場合があります。一方で、FiiO M15SはM17の技術を活かしていることや高域の調整が行われていることにより、当初想像していていたよりクオリティが高く、好きなサウンドでいい意味で驚かされました。これは夏にヘッドホン祭で展示されたときはその特有の高域のシャリつきがあったので、そこから最終調整までの間で改良されたものと見られます。そのため夏のイベントの際に試聴されたときはイメージが異なるので、改めてご試聴されることをおすすめします。またTHX AAAアンプが非搭載である点も、M17やK9PROと異なる傾向に聴こえるポイントになっています。
また15万円という価格面でいえばM15ユーザーの買い替えはもちろんのこと、M11 PLUS、M11Sユーザーもアップグレード先として、有力な選択肢になると思います。特にP/Dテクノロジーによるデスクトップモードは、PD対応の充電器さえあれば、DAPとしての役割だけでなく、据え置きのような役割も兼ねることができることから汎用性が高く、M15S一つで完結させることができるからです。K9PROほど本格的な据え置きが不要だけど、据え置きとしても使いたい、場所を取るような機器は避けたい、ポータブルもしたいという方には相性の良い製品です。
最後にP/DテクノロジーによるDCモードの印象になります。バッテリー駆動時と大きな変化は現時点で感じていません。一方で、バッテリー駆動ではなく、USBによる直接給電になることから駆動力の向上は確かに感じられ、音のキレや低域をはじめとした解像度の向上、横の広がりなど据え置き的なポジティブな影響は感じられます。P/DテクノロジーによるDCモードによって劇的に音が良くなるということではありませんが、据え置きのような駆動力は魅力的です。
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