HiBy FC6のレビュー記事です。HiBy FC6はHiBy初のDarwinアーキテクチャーを搭載したドングル型DACということで、昨年の2022年に発表されてから欲しいと思っていましたが、発売日が遅れたこともあり、手に入るのはたいぶ後になりました。3月6日時点で日本では未発売で、中国での発売日は2月25日です。価格は1998元で、日本円で約4万円とドングル型DACとしてはハイエンドに位置する製品となります。これまでいくつかのドングル型DACを買っていて、現在手元に残っているのはLuxury&PrecisionのW2-131だけです。またポータブルDACとしてはChord Mojo2を持っています。いずれもポータブルDACとしてはとても良い製品と考えているので、この2つと比較しつつ、FC6の魅力についてレビューをしていきたいと思います。
それでは早速、結論からです。このHiBy FC6はDarwinアーキテクチャーを搭載で、R-2R方式のDACとなります。そのためエージングが必要と考えていましたが、箱出し時点からすでにしっかりとしたサウンドが出ています。他のドングル型DAC同様、エージングは不要なものと考えていますが、今後変化があれば追加していきます。またRS2は試聴会でエージング前ものしか聴いたことがないため、比較ができません。ただRS2のエージング前を聴いたことあるので、それと比較するとFC6は箱出しから”しっかり出ている”と感じています。価格は4万円と高めですが、3.5mmのみだからという理由だけで買わないのはもったいない製品です。ただ一方で、3.5mmのみでは人気が出にくいのも事実で、今後売れ残った場合に値下げの可能性もあることから、買うタイミングは難しいです。3.5mmのサウンドだけで考えれば4万円の価値あるドングル型DACです。またFiiO FD7やFH9など比較的、鳴りにくい部類のイヤホンもしっかり鳴らすことができたので、3.5mmのみでもイヤホンで聴く分にはそこまで心配しなくても良さそうです。
Pros
・レザーケースが豪華
・バランス端子搭載に比べて小さい
・カラーディプレイが視認しやすい
・しっとり、潤いのあるサウンド
・中低域よりで暖かみのあるサウンド
・シルキーで、リアリティのあるサウンド
Cons
・Lightningケーブルが付いていない
・3.5mmのみ
・プラグ抜き差し時のノイズが大きい(アナログアンプと同じ扱いが必要)
・組み合わせを選ぶ、組み合わせが悪い時↓
・鳴り方に余裕がない、音場が狭い
・縦のレンジが狭い、複雑な曲ではごちゃつく
HiBy FC6 概要
HiByのドングル型DACとしては、FC1〜FC5まであり、そのすべてがESS社製のDACチップを使用しています。今回新しく発売されたFC6はHiByのドングル型DACでフラグシップという位置付けになります。そしてDarwinアーキテクチャーが搭載されたHiBy初のドングル型DACでもあります。R-2R方式のDACのため、SN比やダイナミックレンジ、ノイズレベルなどスペック上はESS社製やCS社製と比較すると数値上は見劣りします。このスペック面については後ほども記載しますが、まずノイズについてはやはり不利で完全な黒い背景とはいえません。一方で、SN比やダイナミックレンジは1万円台のドングル型DACで異様に高い数値の製品がありますが、その数値に近いハイエンド帯のDACやDAPと比較すると聴感上で明らかに分離感やレンジが劣っていますので、音の分離感やダイナミックレンジは価格に比例すると経験上、私は結論付けています。
回路構成などその他の詳しい製品情報についてはHiBy FC6の製品ページをご覧ください。
HiBy FC6 同梱物
HiBy FC6の同梱物は、レザーの箱、本体、レザーケース(本体に装着済)、USB タイプC to Cケーブル(10cm)、USB タイプC to Aケーブル(15cm程度?)、説明書・合格書などの書類です。特徴的なのは、付属品と言えるかわかりませんが、レザーの箱も付いてきます。フラグシップと位置付けているだけに豪華にしています。ただし、外箱は一般的な段ボールなので、冷めてみると意味がないようにも感じます。また4万円というハイエンドのドングル型DACでLightnigケーブルが付いていないのは珍しいです。Weiboの動画では、iPhoneとの接続時にはわざわざApple純正のLightning to USB タイプAアダプターを使用した解説動画を挙げていたのでLightning to USB タイプCが使えないという可能性も考えましたが、実際にLightning to USB タイプCケーブルを使っての音出しができました。そのため付属品にないのが不思議です。レザーの外箱にコストをかけるなら、Lightning to USB タイプCケーブルをつけて欲しいというユーザーも多いのではと思ってしまいました。
HiBy FC6 外観、操作、機能レビュー
まず外観として、これまでの写真で見ていただいたとおり、レザーケースの質感はとても良いです。そしてサイズ感ではバランス端子がない分、厚みが薄くなっているので、再生機と接続したままでもポケットに収まりやすいです。そして、ドングル型DACとしては唯一、カラーディプレイを採用しているという点も特徴として挙げられます。このカラーディプレイがドット表示のディスプレイに比べると非常に見やすく、必須ではありませんが、UI面で優れています。欲をいえば、もう少し明るいと良いと思いますが、電力消費とのトレードオフなので、他社製のドングル型DACと比べれば十分に視認しやすいディスプレイです。
そして機能面です、すぐ上の3枚の写真中「PCM」と表示されている背景色と本体下側のRGBライトがステータスを表しています。イエローが48K以下、シアン(水色)64-192K、オレンジが362.8-768K、ホワイトがDSD、ピンクがMQAで、レッドが一時停止です。一時停止までRGBが変化するのは珍しいですね。次にデジタルフィルターが用意されています。デジタルフィルターはFast Normal/Late、Slow Normal/Late、Min Phaseがあります。これらのフィルターは次に説明するOSモードでしか、発揮されないようです。機能面で最後はNOSモードとOSモードです。HiByの説明によれば、簡単にいうとOSとはオーバーサンプリングを指しているモードになります。OSモードでデジタルフィルターを変更することでイヤホンに適したサウンドシグニチャーに設定可能としています。またNOSモードは192K以上の音源に適しているとしています。今回のサウンドレビューではOSのSlow Normalで行っています。NOSモードとOSモードについてはかなり聴き込まないとわからない程度の違いだと思いますので、今後確認できたことがあれば追記します。
HiBy FC6 サウンドレビュー
総括
やっと本題です。すでに最初に結論を書きましたが、W2-131同等の感動がありました。W2-131は比較的、乾いたサウンドで、ニュートラルなサウンドを持っているのに対して、HiBy FC6は中低域よりの暖かみのあるサウンドで、しっとりとしていて潤いのあるサウンドです。ここでW2-131同等の感動したポイントの解説になりますが、ドングル型DACにおけるハイエンド帯の魅力は空間の表現能力です。ドングル型DACは比較的、価格と相関性があります。これまで他のドングルDACを試してきた個人的な見解であるという前提を置きつつ、アンダー1万円〜2万円未満(エントリー)はスマートホンで聴くよりも滑らかな音質を提供し、曲によっては高いパフォーマンスを発揮します。2万円〜3万円(ミドル)では、滑らかな音質だけではなく、音の解像度が高くなったり、分離感が向上したり、いわゆる性能的な部分が高くなります。最後に4万円前後(ハイエンド)では、ミドル帯である性能値の高さに空間表現力が加わります。この空間表現とはサウンドの空気感で、わかりやすくいえば生歌を聴くようなリアリティさや表現力です。そしてHiBy FC6は表現のリアリティさが素晴らしいです。なお、これはあくまでドングル型DACにおける価格別の比較ですので、当たり前ですが据え置きなどの体積や電源の面で優れた製品に対しては明らかに劣りますので、その点はご留意ください。それでもミドルクラス以下のDAPには近づいており、HiBy R8とも比べていますが、好みといえばそれまでというレベルまで近づいていると思います。そのため最初に述べたように3.5mmのみというビハインドはありつつも、FC6が持つ個性的なサウンドだけを切り取れば4万円の価値があるドングル型DACだと思います。特にW2-131は中国では同じ4万円ですが、日本では5.6万円と高価なうえ、生産終了していて手に入りません。このことを考えれば、魅力的な選択肢になり得ると思います。
一方で、ノイズ面でR-2R方式の小型機は不利な印象です。再生時や無音時にホワイトノイズが気になるということはありませんが、接続時のポップノイズはかなり気になるレベルです。ドングル型DACでは電源ボタンを搭載していないので、電源元から取り外す以外ではスイッチオフにはできません。そのため再生機の電源を落としてからというのが正しい手順になりえますが、スマートホンから取り外す度に、スマートホンの電源を落とすのは現実的ではありません。そうなると電源が入った状態で実質、端子を抜き差しするので、この時のポップノイズが大きいとかなり気になります。そのため初めに述べたとおり、アナログアンプのような扱いをする必要があります。つまり、接続してからイヤホンを耳につける、イヤホンを耳から外してから、取り外しを行うということです。
以上のことから、結論としてドングル型DACにおける完成度は依然、Luxury&PrecisionのW2-131が高いです。これはW2-131のノイズのなさや組み合わせを選ばないサウンドシグニチャーによるものです。また3.5mmのみのポータブルDAC/アンプというカテゴリーでは、mojo2と比較すると音場の狭さや余裕のなさによる窮屈感が気になりました。このことから万人受けするような汎用的なサウンドではないと言えますが、HiBy FC6の持つ個性は素晴らしく、そこがハマったのならきっとすぐにでも購入したくなる製品です。
ここから、いくつかのイヤホンと合わせたサウンドレビューです。DDとしてFiiO FD7、BAとしては1BAのG4 ARAYA +DNA1、4BAとしてVISION EARS VE4.2、6BAとしてFiiO FA9、ハイブリッドとしてFiiO FH9でそれぞれレビューをしていきます。
HiBy FC6 × FiiO FD7
FiiO FD7は中高域よりで、女性ボーカルでは透明感と艶のあるサウンドが特徴です。そしてセミオープン型により音場の広がりを感じることができるイヤホンです。そのためHiBy FC6のボーカルの近さが軽減され、音が左右に広がっていくようになります。そしてFC6の良さであるしっとりとした音の潤いは、みずみずしくなります。ただし高域の刺さりはギリギリなところにあります。この点は好みが分かれるところですが、高域の刺さりが苦手な私でも問題ありませんでした。またFD7は鳴りにくいと言われることがありますが、FC6では十分にFD7の性能を引き出せていると思います。
HiBy FC6 × G4 ARAYA +DNA1
G4 ARAYA +DNA1はFD7同様、透明感と艶のあるサウンドが特徴ですが、もう少し低音もあり、バランスが整っています。また作り込んだ音の広さなどはなく、1BAらしく自然に音が広がり、素直なサウンドが特徴です。+DNA1との組み合わせでは、FC6が元々持つ中低域よりのバランス、ボーカルの近さに戻ります。それにより声のリアリティが増します。息遣いも聴こえてくるようなリアルな表現力です。しかしそれ以外はこの組み合わせでは少し個性を潰し合っている感じがします。音の温度感は比較的ニュートラルになります。
HiBy FC6 × VISION EARS VE4.2
VISION EARS VE4.2は分解能が高く、しっかりとした低域の表現力がありながらも全体を俯瞰して聴くことのできるイヤホンです。まずFC6は音数が多い曲でも音粒が立つように表現できることがわかりました。しかし縦のレンジが狭いので、複雑な曲になるとややごちゃつきます。またVE4.2は一部の高域が刺さりやすい傾向を持っていて、その部分が出てしまっていて高域に刺さりを感じます。音数を出せているという良さはありますが、あまり相性が良いようには感じませんでした。
HiBy FC6 × FiiO FA9
FiiO FA9はどこかの帯域によることないニュートラルさ、味付けのないサウンドを持っています。その代わり、再生機側の音を正確に表現できます。FA9で聞くと、FC6が低域の質感が良いことがわかりました。深さはありませんが、ボワついてなく、弾力も適度にあります。またボーカルが一歩下がったような感じになり、バランスが良いです。それにより音場の狭さも改善されいます。全体を通して、とてもスムースな質感となっていて聴いてて気持ちがいいです。
HiBy FC6 × FiiO FH9
最後にFiiO FH9です。端的にいえば完成度の高いイヤホンです。何か個性が持っているわけではありませんが、低音から高域まで優れた質感のサウンドを持っています。FH9で聴くと、FC6の中低域のバランスはそのままになります。しかし、低域から高域までよりシルキーなサウンドになります。とても滑らかで、FH9の元々もつシルキーなサウンドと相乗効果が生まれているような質感の良さです。縦のレンジも狭いながら、FH9のセミオープンによって、低音が抜けていくので音場も狭すぎる印象はなく、音もごちゃつきにくいです。女性ボーカルはもちろんのこと、男性ボーカルやロックでも十分に聴ける組み合わせになっています。
以上、HiBy FC6のレビューでした。
様々なイヤホンと組み合わせることで、HiBy FC6の特徴が見えてきました。それは、●中低域よりの暖かみのあるサウンド、●しっとり潤いのある(イヤホンによってはみずみずしい)サウンド、●滑らかでスムースなサウンド、です。鳴り方に余裕がなく音場や縦のレンジの狭さから組み合わせるイヤホンによってはごちゃつきや窮屈さを感じるデメリットがありつつ、相性が良いイヤホンとの組み合わせでは空間表現も素晴らしい製品でした。
EARL(ライフスタイルDX)
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